An "I " Novel from The City Of Angels

Diary 『バンコク在住日本人ギタリストの日記』

生きるってのは大変だ ー2012年の日記よりー

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2011年の9月にバンコクに移住した。その年の洪水の影響で就く予定だった仕事が急に無くなり、先行きが不安な上に機材をほぼ全部叩き売って部屋も引き払って来たもんで帰る場所もないし音楽やるにも機材もない…ってことで完全にテンパって新たな仕事を作ろうと右往左往していた5年前の日記。今の自分と感じ方がだいぶ違っていて新鮮だなと思ったもんで載せてみる。この頃は日本を出て半年ほど経ったころで、けっこう重度のホームシックにかかっていてさみしいって話ばかり書いている。

 

2012年4月9日

完全に疲れていたのだけど、いや疲れ過ぎていたからなのかな?とにかく浅い眠りで何度も夢を見ては目が覚めるばかりで朝が来てしまった。見る夢といえば誰かと一緒に平和に眠っているという夢ばかりで、どうも例のごとく「さみしい」が形を変えて訪れているいるようだ。今回は夢なので誰にも迷惑がかからなくて良いが。その一緒に眠っている相手が毎回変わっている上に記憶にない見知らぬ誰かだというのは心理的にどうなんだ?と明けていく街を見下ろしながらよくよく夢の中の相手を思い出そうと考えてみたがやはり思い当たらぬ。一般的に夢に観るのは今までの記憶から構成されるイメージだというが、はっきりと思い出しても知らない顔なんだけどね・・・まあ夢だし曖昧なもんだ。

「あたたかくてやわらかいものをさがしている。」

3度目の夢から覚めた時に気づいたが、これは子供の頃に感じていた母のイメージだ。思い当たるフシがたくさん出てきたが俺は多分母親のいないマザコンなのだな。たちがわるい。動物がくっついて眠るように何かに触れていたい。今までは一人の夜も猫達が常に俺を寂しさから救ってくれていたわけであいつらに深く感謝しなくてはいけない。統計とったら多分はっきりと出ると思うけど子供の頃に母親に十分触れて育った奴はそうでないやつに比べてあまり恋人や友達にべたべたしないだろう。足りないかったからずっとさがすのだな・・・てなことを考えたのはBARで会って友達になったNidの過去から今に連なる生活を知るにつれて徐々に認識してわかってきたと思ったことが俺の想像をはるかに超えていてまだ何もわかってないじゃんと愕然としたからで、果てしない階級社会の負の連鎖に太刀打ちするには果てしなくポジティブじゃないといけないんだなと・・・マイペンライは深い言葉だ。俺は中途半端にアッパラパーで中途半端に悩む。ぬるすぎるぜ。

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今日はタイ国王のお姉さんの命日ってことでお酒が禁止の日なのでBARは基本お休み。昨夜もROCK BARに飲みに行ったらスタッフのNidが「コウタお腹が減った」というので屋台の安いご飯を ご馳走した。するとそれこそ野良猫の勢いで食べていたので、「なんでそんなにお腹が減ってるの?」と聞いたのが俺を驚かせて混乱させた話の始まりだった。個人的な話なので内容は書かないが、彼女は笑っていたが俺ならもう死んでるかもしれんってな内容だった。確実に心が折れる。最終、明日休みならご飯に行こうって話になって、俺の行ったことの無いタイ人ばっかりのところへ連れて行くことを条件にNidと夕食を食べる約束をした。
待ち合わせ場所に一時間遅れてきて、さすがに俺は帰りかけていたけどそれにはまた理由があったりしてこれまた書けない内容のカルチャーショックである。謝りながら現れた時は人なつこい猫みたいに過剰にすりすりしてたけど、ほとんどタイ人しかいないめっちゃでっかい食堂で山盛りの肉とエビを食べて、お腹いっぱいになると一瞬で俺から興味を失うところもうちの猫たちと一緒だったな。おもろい。

「ありがとうコータ!お腹いっぱい!友達と遊んで来る!」と嬉しそうに帰って行ったのでとりあえず俺はスコールのあとの水蒸気でふやけた月を眺めながらふらふらと散歩して帰った。通りがかりついでに歩いたソイ カウボーイはBARがほとんど閉店していて真っ暗で、住み込みの女の子達がイサーンの歌を聞きながらまったりしていた。いろいろあるけどそれでも日々は往くわけだ。

 

俺はこの時期に楽器が弾きたくなるとソイ・カウボーイの場末感漂う ROCK BAR のBANDに乱入して夜な夜なブルースやロックを弾いていた。自分のライブをやるようになって人に会う機会が増えるとほとんど行かなくなってしまったが、何かの機会に店の前を通りかかると今でもスタッフに声をかけられるし、バンドのメンバーに街で会って話をしたりもする。とにかくこの店ではタイ語のレッスン代わりにスタッフのおばちゃんたちと話をして、飽きると古いロック/ハードロックの名曲を弾いて酩酊して沈没しかけているファランのおっちゃん達にビールを奢ってもらっていた。

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文中のタイ人の女性Nidとはもう長い間会っていないが、数年前に街で会った時は彼女はファランのやさしそうな男性と子供と3人で歩いていた。幸せそうでよかったなぁと思ったが、彼女が声をかけてくれるまで俺は彼女が誰だかわかっていなかった。全身整形ってすごい。顔も体型も変わっていてまったく別人だった。