Everybody Needs Somebody to Love
今回は音楽とは全く関係ない話。タイに30日間以上長期滞在するためには何の種類にしろビザを取得しなくてはいけない。各種ツアー、もしくは個人で一度ラオスやカンボジア等の周辺国に出国して各地のタイ大使館でビザを取得することになる。俺は格安のバスツアーでラオスの首都ビエンチャンに行くことが多い。格安ツアーなので片道10時間以上のバス移動ではっきり言って行き帰りがめっちゃ暇だ。ビエンチャンも田舎町でなんにもないのでとにかく暇。時間があるのでツアー参加者の他の日本人のお客さんの話を聞いたりして時間をつぶす。なので、このツアーで知り合いになってその後もお付き合いが続くということが多々あるわけだが、40代50代の真面目そうなおじさんから同じような話をよく耳にする。
わたくし今タイ人の彼女がおりまして、それがいろいろ苦労しながら家族の為に頑張っている健気な子なんです
このセリフをツアー中だけに限らずもう何回耳にしたかわからない。苦労話はタイの夜の女性が男を捕まえるときの必殺パターンで、苦労話で世界中から来るおっさん達の男気スイッチ(By 島田紳助)がオンになるかどうかを彼女たちは冷静に見ている。昭和生まれの日本男児は女性の苦労話にほんまに弱い。ここに来る前からそんな話を聞いていた俺ですら最初は盛り場で聞く苦労話に同情していたくらいなので威力は絶大である。夜の女性に免疫がない仕事一筋の真面目で純粋な男性ほど盛り場で手ぐすねを引いて待っている若くて可愛らしいタイの女の子に頼られると秒殺でハマる。なんやったら女の子よりきれいなレディーボーイにもハマる。昨今の中学生より確実に夢見がちなので、『俺が助けてあげないとこの子は…』てな感じである。純情なおっさんってのは多少気持ち悪いが、基本的にいいひとであることは間違いない。見事なカモだ。こうなると日々少しずつ身ぐるみをはがされていくので気付く人はある時点で気づくのだけど、とことんまで行く人は全財産をつぎ込んで金が尽きた時点で捨てられてバンコクやパタヤのビルから飛び降りる羽目になる。日本人に限らずファラン(欧米人)も飛ぶ。良くある話だ。
日本人の成人ならば誰でも知っている有名企業を早期退職して退職金を持ってバンコクにやって来た50代の男性の場合
バスツアーで一緒になったおじさんが後日突然仕事先に来て話を聞いてほしいという。
『彼女が一緒にお店をやるのが夢だというもんで、今物件をさがしているんです』
『え?それ大丈夫ですか?知り合ったのいつでしたっけ?』
『だいたい2か月前です』
『まだその子のことよくわかってないんちゃいます?もう少し付き合ってみてからの方がええんちゃいます?』
『いえ、彼女は私を愛してるといってます。大丈夫です。店が上手くいったら彼女の田舎の家族をバンコクに呼んで結婚しようかと…』
『いい話に水差すのもなんですけど、よく話に聞くヤバいパターンそのままですよ。慌てないほうが…』
『いえいえ!彼女に限ってそんなことはありません』
ー2か月後ー
『タキさん…』
『おひさしぶりです。どうしたんですか?』
『それが…お店を取られちゃいました』
『えええっ!?どういうことです??』
『あの後物件を見つけて契約してなんとか開店して1ヶ月ほど経った頃に彼女の夫だという男が田舎から来まして、いろいろ脅かされまして…追い出されちゃいました』
『えぇぇぇ…マジですか。 でもまだそれだけですんでよかったかもしれませんね。もっとひどい話も聞きますし』
『いやそれがそれだけじゃなくて…店の近くに彼女の名義でアパートも買いまして…』
『え!!!まさかそれも取られたんですか??』
『はい』
『いや~それはなかなかのいかれっぷりですねぇ』
『そうなんです…お恥ずかしい』
ーその3か月後ー
『タキさんおひさしぶりです!』
『ああ、久しぶりですね。その後いかがですか?』
『その後わたくし新しい彼女ができまして』
『…今回もまた盛り場でみつけたんですか?』
『そうです。でも今回は前とは違います。新しい彼女は病気のお母さんの為に頑張って働いているとても真面目な子です。お母さんの介護の為に看護婦になるのが夢で…』
『もしかして学費出しちゃってます?』
『そうなんです。卒業までは私が面倒を見てその後結婚をしようかと…』
『ええと…とりあえず気を付けてくださいね。アパートとか買っちゃだめですよ』
『もちろんです』
ーそしてその半年後ー
『タキさん』
『ああどうも』
『わたくし一度日本に帰ることにいたしました』
『そうですか …(またやられたな)』
おっさん浮かれるのはいいけどちっとは考えろ!!
誰がどう見ても阿呆である。世間知らずにも程があるし、一応こっちも真面目に忠告したのに1年以内に同じパターンを繰り返すってどういうことやねん!!とさすがにその時はイラっときたし、その後別の若い奴が同じようなことになった話も聞かされたりして正直考えるのが面倒になって記憶の中から消去しかけていた。
でもある時、『わたしは真面目一辺倒で生きてきて一度も恋愛をしたことがありません。もちろん結婚もしていません。このままではいかんと思って会社を辞めてここに来ました』と話していた場面がフラッシュバックして、何も起こらず誰も愛さずに終わる人生よりぜんぜん良かったのかもしれないと思い直した。ちょっとしたハプニングどころじゃなくてなかなかの修羅場である。長年一生懸命働いて貯めた金で何をしようと勝手だし、50年以上生きてきて何もなかったのに、わずか1年間で2度も若い女の子と付き合って修羅場ったわけである。向こうが金目当てであれなんであれ、真面目一辺倒のおっさんが若い女の子と恋愛ってのは日本ではまずありえない状況である。他人が何をしようと気にしない自由の国タイだからこそ起こる出来事だ。あの時のおっちゃんは確かにキラキラしてた。気持ち悪いしぜんぜんかっこよくないんだけど、悪い女にハマって振り回されて転げまわって死ぬまで堕ちていくのもひとつの選択だよな、と今は思っている。死なない程度にがんばってね、おっちゃん。