An "I " Novel from The City Of Angels

Diary 『バンコク在住日本人ギタリストの日記』

公共の場で音を奏でる

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バンコク・トンローのThe Commonsでの演奏風景。これは多分俺が弾き始めた17時半くらいの光景。この後20時までお客さんがわいわい賑わっていた。ここは有名人や芸能人の多いトンロー界隈の最新スポットって感じで近隣の洒落た皆さんが集っている場所で、ヨシタケ君はミナミにビックステップができた頃の喧騒を思い出すと言っていた。日本との違いはここにはタイで言うところのハイソ(要は金持ち)しか来ないってところだ。キッシュ一切れに生野菜少々で一皿220バーツ。一歩外に出れば屋台のご飯が一皿40バーツ。すべてにおいてこんな感じの値段の差があって普通のタイ人のお客さんは来ない。要は値段で来る人が選別されている。女性だけじゃなくて男性も手入れが行き届いているので毛並みの良い血統書付きの猫がたくさんいるみたいな印象だ。もちろん貧乏ミュージシャンの俺は40バーツの飯を食う。野良猫みたいなもんだ。

俺のソロは1時間弱の演奏だったけど、目の前を行き交う皆さんが興味深そうに覗き込んでいったり、ガン無視でおしゃべりに夢中だったり、赤ちゃんが目を丸くしてじっと見ていたり、知り合いが気づいて手を振ってくれたり…という感じでゆっくり時間をシェアする感じが楽しい。演奏の半分くらいが即興演奏だったけど、自分でもびっくりするくらいPOPなセットだった。館内にも音が流れていたのを知らなくて、大きなガラスの向こうで思い思いに過ごしているお客さん達が聞こえるはずがないのになぜこちらを見てるんだろう…?とか不思議に思いながら、こちらも着飾ったお客さん達を観察していた。良い企画をしてくれた若い友人に感謝。

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ホームタウンの神戸三宮や大阪梅田でも一時期ストリートでアンビエントをやっていたが、ええ感じになればなるほど警察やらヤ〇ザの皆さんが嫌がらせに来てなかなか厳しい状況だった。自由の国タイといえども公共の場でいきなり演奏ってのは揉め事の原因になるし警察はよりややこしいしであまりよろしくない。なので、今回のように許可をもらって演奏できるってのは貴重な機会。そんな流れが来ているのか、昨日もバンコク市内で正式に許可を取ってバスキングのできるスポットを教えてもらったので早速申請に行ってみようと思っている。いつものように音楽目当てのお客さんが観に来てくれるライブやパーティーでのショーケースとはもちろん違うし、衆目を集めることが第一義のストリートバスキングともまた目的が違うのだけど、今のスタイルで演奏を始めた時からアンビエントミュージックを生で演奏するってのは時間と空間と人のセッションなのだと思っていて、それを磨くのに最適なのは公共の場所だった。うまくやらないと本当にぜんぜん聞いてくれないのでバンドマンやシンガー達は嫌がるが、俺にとってはいろいろな国の人が集まるバンコクの商業施設での演奏は最高の実験の場だ。空気を掴むまではさんざん悩むが、良い演奏をすれば結果的に金も稼げるし言うことない。

運河沿いの下町を歩くと軒先に鳥籠を吊っている家がある。街の喧騒と美しい鳥の鳴き声を聞きながら、腰布を纏ったおじいさんがまったりタバコを吸っている。おじいさんの傍らには猫が数匹寝そべっていて俺を避ける気配もない。バンコクの下町の夕景はとてものどかで美しい。大事なのはテンポだ。俺たちは急ぎ過ぎている。

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近隣では猫の出産ラッシュで夜道を歩くと子猫だらけで俺は立ち止まってばかりだ。タイの野良猫は警戒心が薄い。それは住人がみんな優しいからだ。いつか街の風景に溶け込むような優しい音楽が作れると良いなといつも思う。