amatuti dub drawing space ①
少々変わった演奏スタイルなので、どうやって今のスタイルに?とか、何をどう考えたらあんなことに…というような、説明すると長くなりそうな質問を毎回されるけど、ライブの時はほぼ全編無言で終了後は疲れて酔っぱらっているので結局ほとんどまともにしゃべったことがない。そんなわけで今回は良く聞かれることについて詳しく書くことにするが、同じ楽器弾き同士でも何を言ってるかよくわからないと言われるので、楽器を弾かない人にはほぼ意味不明な記事だと思う。
俺はPOPSをやっている
アブストラクトとかノイズというと難解に思えるが、実際はそんなことはない。ほとんどの場合、難解なのは音楽ではなくて演奏しているアーティストの考え方や性格の方だ。俺は不特定多数の人に聞いてほしいので少し変わった POPS だと思っていつも演奏している。アホみたいな話だけど「そのうち地球に降り立つかもしれない宇宙人にも均しく気持ちよさが伝わるような音楽」を弾こうと山籠りまでして必死で考えて言葉のない決まった曲をやらない今のスタイルでソロ活動を始めたのだ。それ以前に精神的にかなりキツい状況に置かれていてそこから解放されたばかりだったので軽く頭がイカレてたのかもしれない。
ライブの冒頭に効果的な音を作ることができれば、『意味がわからない』ということが逆に聞いている人の想像力や感覚を活性化して一瞬で集中してくれるので、普通のギター演奏よりもぜんぜん簡単に心を掴める。あとはお客さんの脳に直接信号を送るようなイメージでエンディングに向かって連綿と音を紡いでいく。その後の演奏は現場対応で進める。いろいろな場面を作りながら進んでいってエンディングを作って着地する。POPSなので不快なアプローチはしない。一時、前衛芸術や現代音楽の方々やダークなノイジシャンともセッションしてみたが、負の感情や不快感を増幅するような表現が苦しいのでやめた。単純に性格に合っていなかった。
もちろんライブの前にシュミレーションは何度も行う。実際の演奏時間を想定して実際に何度も弾く。本番直前まで何度も頭の中で組んでは壊し組んでは壊しを繰り返す。各パーツは普段から何度も弾いて効果的なフレーズやリズムを身体で憶える。そして、それを本番前に一度きれいさっぱり頭の中から消去する。始まりと終わりには挨拶をする。でも演奏が終わるまで意味のあることを言わないほうが聞いている人の集中力が高まるので、できる限り言葉は発しない方が良い。
ライブが終わると毎回思い返して記憶する。記憶するのはフレーズではなくて流れとか雰囲気、テンポ。音が部屋のどこでどんなふうに鳴っているかを見て、光で描いた模様に見立てて立体体に記憶する。印象的だった共演者の音とかハーモニーも同じようにふわっと記憶する。細部のコピーはしない。そうやってインプットしながら毎日毎日弾き続けると、記憶した空気感が自然と自分の音に反映されていく。今までに1600回以上人前での演奏を繰り返したので、平坦に演奏するだけでいいならば5時間程度はノンストップで弾き続けられるだけのネタが頭の中にある。
余談だけど、かなり前にミュージシャンの先輩が超ひも理論というのを教えてくれた。これを読んで以来、突き詰めれば音は魔法だと本気で思っている。
なぜループマシンを3台も使っているのか
1台だとせいぜい2種類の長さのループしか作れないので単調。地味なレコーディング作業みたいな演奏を見せられてもみんな退屈。2台あればある程度見られる演奏はできるが、2台のルーパーの間に挟んだディレイシュミレーターとフィルター代わりのワウワウを通して弾いている音やループの音質を細かく変えたほうが各パーツの分離が良く、より複雑で立体的な音像を作ることができるのでセパレートで3台使用している。その結果、スピーカーから出た音が空間でぶつかってナチュラルにフランジングしたり弾いていないはずの倍音が発生する。これは場所やアンプの種類によって響きが変わるので未だに予想外の未知の音が出ることも多いので制御が大変だけど音色が特徴的でとても効果的だ。最近は1台でたくさんのループを作ってエディットできたりメモリーできる性能の良いお高いマシンが主流。昨年暮れのアジアのルーパー大集合のマニアックなイベントでマルチタイプのいろいろな機種のルーパーを見たが、マルチはどれだけキレイに音を積んでも結局平面的になる。音質はめちゃめちゃキレイで今っぽいけど、ライブでは威力に欠ける。結局使い方だとは思うけど好みじゃない。
なぜPCやドラムマシンを使わないのか
- 一応楽器弾きの端くれなので基本のグルーヴは自分で作るべきだと思っている
- ベーシックを機械まかせにするとカラオケみたいでめちゃかっこ悪い上にぜんぜん面白くない。どうしても必要な場合はトラックメイカーやDJにお願いする方が良い。
- 事前にやる曲が決まっていないので準備のしようがない
なぜ楽曲をやらないのか
ソロを始めた頃、ちょうど音楽のジャンルがファッションと連動した形で細分化が進んでいて、特徴的なレゲエやヒップホップ、ロック、パンク、だけじゃなくてダンスミュージックも様々なジャンルに分かれていた。演奏の始まる前にファッションで『あ、興味ないジャンルだ』とお客さんに簡単に判断されて気持ちを閉じられてしまうのが嫌だったし、どんなジャンルのパーティーにも出たかった。なので、誰も知らない音楽ならみんなスタート地点が一緒で逆に平等だろう と考えて曲を演奏するのをやめた。その前にメジャーでマーケティングが…とかターゲットは…とか言われながら洋楽のパクリ曲を作ったりしていたのでその反動もかなりでかい。そんなこんなでジャンル的特徴のない地味な黒い服と黒い帽子を衣装にして始めてみたら想像以上に面白かったし弾く場所もあったのでそのまま今に至る。最初はかなり厳密にルールがあったが、最近は細かいことは気にしていないので楽曲や大ネタのリフなんかも気にせず弾く。下の映像みたいに突然ドラムが入ってきてもひたすら弾き続ける。要はなんでもありだ。決まった曲があるとそうもいかないのでこれはこれでいいんじゃないかなと思っている。
本日は以上。